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広島高等裁判所岡山支部 昭和42年(く)3号 決定 1967年3月29日

少年 S・T(昭二五・一一・七生)

主文

原決定を取り消す。

本件を岡山家庭裁判所に差し戻す。

理由

抗告人は主文同旨の決定を求める旨申し立てたのであるが、右申立の理由は記録中の抗告申立書および抗告理由補充書記載のとおりであつて、その要旨は、「少年は、精神的に不安定な点はあるが、本件以外には非行歴はなく、剣道に秀でているため○○○大学附属高等学校へ入学できることは殆ど確定的であり、同校で厳格な教育を受けて心身を陶冶し且つ環境を一新すれば、保護者の保護監督と相俟つて、少年の更生を期待できるから、少年に進学の機会を与えるため、少年を試験観察に付し、その結果に徴して本件処分を決するのが相当と思われるので、初等少年院に送致する旨の原決定は著しく不当な処分である」というにある。

よつて検討するに、関係記録に徴すれば、少年は、本件非行以外には昭和四一年七月八日岡山家庭裁判所において暴行の非行により審判不開始の決定を受けたことがあるだけであるとはいうものの、旅費等を捻出するため原判示(2)の如き一連の恐喝の非行に、ついで、友人から猥褻な話を聞いて刺激され原判示(1)の強姦致傷の非行にそれぞれ及んだものであつて、その罪質から見れば、本件は重大な非行であるというべきであるが、その動機、態様、回数、非行歴等に徴すれば、その非行性は必ずしも強いとは認められないこと、少年の智能は準普通域にあるが、九歳頃まで祖母に溺愛されて育てられたこと等から、その性格は感受性が強くて、些細な事で粗暴な行動に走り易い傾向があり、意志の自律性に乏しく、自己抑制力に欠け、我儘な点が認められること、少年には癲癇の疾病があるけれども、これが少年の本件非行に影響を与えているとは認め難いこと、父は過去において家庭を顧みないことがあつたが、最近はその行状も改まり、比較的安定した家庭生活を送つているが、勤務の関係で少年と接触する機会が殆どなく、少年の保護監督には専ら母が当つていること、母は少年を溺愛している傾向があるけれども、保護能力は一応認められること、保護者は、少年が剣道に秀でていることおよび少年の兄が○○○大学に在学していること等から、少年を○○○大学附属高等学校に進学させ、同校の厳格な教育を受けさせて心身を陶治するとともに、住居を東京都に移転することによつて環境を一新し、且つ母は少年とともに上京してその保護監督に当る決意を披瀝して、少年の更生に熱意を示していること、また、少年も高等学校に進学する希望を抱いており、且つ少年が○○○大学附属高等学校に推薦入学する可能性も多分に認められること、少年の小、中学校の成績および学習態度に照らせば、少年が高等学校教育に適応するか否かにつき一抹の不安が存することは否定できないけれども、その智能程度および剣道に秀でていることより見れば、少年が○○○大学附属高等学校に進学することによる更生の可能性の有無については、むしろこれを肯定するのが相当であると認められる。(なお、当審における事実取調の結果によれば、少年は当裁判所の昭和四二年二月三日付執行停止決定により家庭に復帰し、同月八日○○○大学附属高等学校の入学試験を受験したところ、これに合格し、既に入学金等を納付し来る四月八日同校に入学する予定になつていることおよび少年は母とともに東京都内の兄(○○○大学在学中)のアパートに同宿して同校に通学し、母は少年等の日常生活の面倒を見るとともに、少年の保護監督に当る予定になつていることが認められる。)以上の如き、少年の性格、環境、本件非行の罪質、非行性の程度および更生方法等記録に現われた諸般の事情に徴すれば、少年に対する処遇の決定は甚だ困難であることは否定できないところであつて、少年の更生のため、原決定の如く直ちに少年院に収容する処分も考えられないことはないけれども、一面本件非行の罪質を重視し過ぎた嫌があることも否定し難く、むしろ、少年を試験観察に付して、少年に進学の機会を与え、少年の将来の行状を併せて観察した上改めて保護処分の決定をするのが適切な措置であると思料される。したがつて、少年を初等少年院に送致する旨の原決定は著しく不当な処分であることに帰着するから、結局本件抗告は理由がある。

よつて、少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条により主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 村木友市 裁判官 組原政男 裁判官 大下倉保四朗)

編注

受差戻家裁決定(岡山家裁 昭四二(少)一〇二七号 昭四三・三・一六決定 保護観察)

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